ふるさと三原への手紙 ・・・ 加納達則さん
〜イタリアを中心に世界で活躍する現代美術アーティスト〜
ボローニャ便り 2便。 アンティパスト、20時20分発。(前菜)
アペリティーヴォの次に登場するのが、アンティパスト(前菜)です。
前菜にどんなものがあるかを、ここで説明するのは避けることにしましょう。
メニューも、地方の各レストランによって膨大な品数があります。その解説は、これぞ本流と頑張っている料理オタクとグルメ雑誌に任せます。
基本的には、その土地に根ざしている素材を使っています。このあたりからも、イタリアのスローフードの基本的な概念が伺われます。
あくまで和食シフトの方には、私なりの所見ですが、懐石料理の八寸までに出てくるようなものに、トマトとオリーブオイル、ワイン酢、各種の香辛料で調味した料理をご想像下さい。どちらも、古い文明を持つ民族の行きついた現在までの過程です。
基本的に、人間の考えることにはあまり変わりありません。文化の違いが、物事の解釈の違いとしてできているのではないでしょうか?
「イタリアのレストランで食事をすると時間がかかる」という声を、随所で聞きます。それはまず、レストランは20時以降の開店が通常だからです。定刻にアペリティーヴォ(食前酒)から始めて、アンティパストに入れば、20時20分以降になるのは定刻と言えるでしょう。
ホームディーナーの招待であっても、だいたいが同様なので、24時前にディジェスティーヴォ(食後酒)が出てくるのが普通です。
ご心配無く!?
生きるために食べるのではなく、食べるために生きる民族の面目躍如と言えるでしょう。
人生をイタリア人風に楽しまれたい方には、
- 今は亡き名優マルチェッロ マストロャンニのごとく演じてみて下さい -
街のバル(イタリアのカフェバー)で、アペリィテーヴォを楽しむ方法もあります。
レストランでかしこまったウエーターに給仕されるより、夕暮れ時の華やいだ雰囲気、巷のバルのカウンターの方が、次への期待感を持たせてくれて、話も弾むでしょう。
何事にしても、その前と言うことは大切なことです。
前があってこそ、その次に来るものが映えてきます。見えないものに対して、期待させる演出です。
秘すが華デス。
それには彼方と話の合う、ほどほどのお相手が必要ですが…。
このような楽しい状況になっていつも思うのは、この内陸平野のボローニャでは海も山も川も無いのです。(*注1)言い換えれば、瀬戸内海も筆影山も沼田川もない。
それに比べてわが故郷は、海・山・川と三拍子揃っています。三原には舞台装置は揃っているのです。
しかし、残念ながら彼方はマストロャンニではないし、お相手はモニカ ベルッチでもないのです。
現実の壁を如何に乗り切るか?
出来ることなら、次に来るものがほぼ解っていても、その刹那を楽しめる大人になりたいものです。
その大人の友人から、前回のアペリティーヴォに『少し強めのシェリー(*注2)を』とお勧めがありました。
それでは、次回試してみます。
ブォーナ ペティート !(良いお食事を)
追記
次回は、プリモピアット(パスタ又はスープ)についての考察をしてみます。
* 注1 ボローニャの旧市街の背に、小高い丘と小さな川が流れています。
* 注2 ポート/マデーラ系のアルコール度数の高いワイン。イタリアには親戚筋にマルサーラ酒があります。よくデザートワインとして飲まれています。 (つづく)
加納 達則 (1954年 三原市生まれ)
http://www.tatsunorikano.info
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