ふるさと三原への手紙 ・・・ 加納達則さん
〜イタリアを中心に世界で活躍する現代美術アーティスト〜
番外編 フェスタの料理
新年の大晩餐、チェノーネ
時節柄このテーマに触れざるを得ません。
プリモピアット(パスタ又はスープ)をモニターの前でお待ちの方々には申し訳ありません。しばらくお待ち下さい。
さて、イタリアの格言に『クリスマスは家族と、お正月は気の合う人と一緒に』これは彼らがいかに家族の絆を大切にし、かつ個人を尊重しているかというあらわれに他ありません。
なんだかゴッドファザーの世界みたいですが事実です。ファミィーは他者の干渉を許しません。この傾向は半島を南下する程、顕著に現れています。北イタリアは核家族制が進行しているからと思います。
我々不信心な異教徒は、「グルメの国の人達はこのキリスト聖誕祭に託つけて、さぞやもの凄いご馳走を食べているのだろう」と、想像をたくましくするところです。
果たして私自身想像を妄想に昇華しても考えが及ばなかったのは、この時期25日以降のバカンスのお楽しみでした。もちろん12月31日は盛大に新年を祝います。
イタリアに住み始めた当初、わけが分からずぎょっとして視線を釘づけにさせられたものがあります。
この季節になると例年、全ての女性向けファンデーション専門ショップのショーウインドーに、プレイボーイ誌のサンタちゃんにピッタリ!眼がクラクラするくらい?ひらひらセクシーのクリスマスカラーアイテムが飾られます。
この国には北欧出身のサンタクロースの伝説は有りません。
経験に照らし合わせて推測すると、闘牛士のマントの赤色ではないかと思われます。
『結構!お望みとあらば、今夜は貴女のために猛牛になりましょう』
大人の洒落です。この年の暮れ、土俵間際の徹底ぶり、技アリです。
文化の成熟度を見せつけられます、脱帽です。
ただし、その手の男性向けのアンダーウエアーはありません。
裏を返して“錦の袈裟”にあやかりたいとは、私だけの独り言でしょうか?
すごいご馳走は31日夜大晦日、我々が全ての世俗から清められたい一心で年越し蕎麦を厳かに食べている時に、彼らはやっているのです。そうです!ヘビー級ディナーです。
新年を祝う訳です、“聖しこの夜”とは正反対の底抜けのお祭りです。各地のレストランはその地方の特色を出しながら、毎年新たな趣向を凝らします。
27日あたりは、ほとんどのレストランは予約で満席でしょう。
大晩餐、つまりチェノーネのメニューは通例は以下の通り、
食前酒
アンティパスト2皿
プリモ 2種類から3種類
セコンド 肉か魚料理
野菜 温野菜数種 又は、サラダ
ドルチェ お菓子、数種類のケーキ又は果物
食後酒
エスプレッソコーヒー
食前酒、食後酒はもちろん料理によりワインの種類は変わります。甘い物についても、甘口フルーツ系のワインがでてきます。ホームパーティであれば、ライトヘビー級でしょうが、オジイちゃん秘蔵の火薬庫が解放になる時でもあります。
だいたい午後8時半定刻に出発して、午前零時にはスプマンテ(*1)のコルク栓がポンポン飛び交い、真冬の夜空に花火がドンパチ、手当たり次第のキスの嵐になります。
余談ですが飛んで来たコルク栓に当たって、目にアザを作った人を知っています。まさにカッジィーノ!大混乱、大狂喜になります。そして、レストラン中が乾杯の運びとなります。
これが新年最初で、“最後の晩餐”になることが頻繁にあります。
アレだけのメニューを平らげて、気の合う友人達と大騒ぎをします。後は想像にお任せしますが消化不良、花火で火傷、お決まりの交通事故、『ありとあらゆる想像を遥かに超えた事が起きる』とは義姉の談。
本が一冊書けるそうです。
トリノ国立モリネッティ病院の消化器系専門医である義姉は、この日ばかりは緊急搬入の当直は敬遠したいそうです。
ところが一方の格言のごとくクリスマスの夜は、家族と同じく神聖なのです。
日本の大晦日と同じく“聖しこの夜”なのです。ひたすら街中が静寂です。普段、聴こえて来なかった音が聞こえてきます。
どこかの教会の鐘の音か、時たま通る車の音しか聞こえてきません。運が良ければ賛美歌が聞こえてくるでしょう。家族とはなれた旅人にとっては誠に寂しい夜です。遠く離れた家族を思う夜です。日本人の旅人には、大晦日を思い出させてくれます。
イタリア人の大半がキリスト教カトリック教会の習慣に従っているのは、ご存知の通りです。クリスマスは、キリスト生誕の厳粛な聖なる日なのです。従ってクリスマス商戦は存在しますが、ケーキを食べるための言い訳とか、飲むための、出会いのための、言い訳のためのフェスタではないのです。
ただ、フェスタをお祭りと訳してしまえば正解であり不正解です。この際は、復活祭と並び聖なる祝日と訳すべきでしょう。
前置きが長くなってしまったのは、ここでは宗教が存在している事を理解して頂きたかったからに他ありません。
実のところ、このように相反する不文律が自然に存在しているのが、本当のこの国の魅力かもしれません。
皆さんにも今年、2010年良いお年になりますよう心よりお祈り致します。
次回プリモピアットにつづきます。
追記
地方によって異なるとは思いますが、レンズ豆を煮て肉料理に添えて食べます。来年もマメで過ごせますように!ではありません。お金が儲かるようにとの願いです。豆の形が貨幣に似ているためと思われます。
この辺りかなり現実的な国民性を反映しているのではないかと推察します。
(*1)発泡ワイン
加納 達則 (1954年 三原市生まれ)
http://www.tatsunorikano.info
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